全ての新車の値段には、「ピカピカ代」が上乗せされている。
組まれた部品の全てが新品で、ピカピカに輝いている。それを味わえるのは新車を買った人だけの特権だ。
だから私はあまり新車を好まない。
逆説的な言い方だけれど、その理由はいたってシンプル。天邪鬼的な発想でもないと思う。
もちろんピカピカが嫌なわけじゃない。
ただ、買った時の綺麗さが100点満点で、乗れば乗るほどそれが目減りしていくような気がするからだ。
もちろん自分が付けた傷ならそれはそれで愛着も湧くってもんだけど、それでもやっぱり美しさの点数は下がっていく。思い入れと引き換えに。
その点、中古車はいい。
買った時点で、すでに100点満点ではないからさ。
誰かがつけた傷をコンパウンドで磨いてやって上からステッカーでも貼ろうもんなら、買った時より綺麗になった上に愛着だって湧くってもんだ。
傷んだパーツは好みの社外品に付け替えてやってもいいし、好きな色に塗ってやってもいい。
別に「新車が買えない負け惜しみ」くらいに捉えてもらっても構わない。
真新しいパーツを外して社外品に取り替えるのはもったいない気がするのも事実だし。
でも多分、同じように考えるバイク乗りは結構多いんじゃないかと思っている。
たまたま道の駅で捕まえたバイク仲間とそんな話をしていた日。
その仲間が大きなトラブルに見舞われて、バイクの楽しさを強く強く再認識した一日。
そんなツーリングのお話です。
久々に丸々一日、お休みにした週の真ん中。
ここのところ忙しくてなかなかゆっくり休めなかったけど、こうやって自分で休みを決められるのは自営の特権です。
釣りに行こうか、走ろうか・・・。
ちょっとした優越感に浸っていたら、気付いてしまいました。
その日は祝日。
全国的にお休みです。
まぁ、それはそれで悪くないな。
もしかしたらTwitterのFFさんとの邂逅にも期待できるかもしれない。
「まずは道の駅いちかわでご飯を食べて、江戸川で釣り糸でも垂らしてみるか」
FFさんが近くを通りかかったら、そのまま捕獲してしまえばいい。
午前9時。
インカムを付けたラパイドネオを被って、釣竿も積んで出掛けます。
どちらに転んでも良いように。
「今日はどんなキッチンカーが出てるかな?」
なんてことを考えながら、あっという間に道の駅に到着。まずはぐるっと一回りして、キッチンカーを偵察しながらバイク乗りを探します。
「お!和さんが来てるぞ」
北小金のたこ焼き屋さん時代からお世話になっていた馴染みのお店が出ています。
朝ごはんはこちらの丼物に決定です。
そのまま駐輪場に走って行くと、見慣れた人物が佇んでいました。
GNからジクサーに乗り換えた甘口さん。
そそくさと隣にバイクを停めて、「お久しぶり!」と声を掛けました。
「え? なに? 風さんどうしたの???」
かなり驚いている様子。
期待通りの悪くない反応です。
「たまたま今日は休みにしたんで、誰かいるかなぁ?と思って来てみたんですよ。ご飯でも食べましょ!」
出発間際だった甘口さんをそのまま拉致して、和さんに向かいます。
和さんといえばたこ焼きだったんですが、最近はジビエが人気だそう。
まだ食べたことがなかった和さんのジビエ料理。猪肉丼をお願いします。
そもそも猪自体も久しく食べてない。
醬油味のタレで香ばしく焼かれた猪肉。
臭みもなく、ちょっと濃い目の味付けがご飯によく合って、箸が止まりません。
「ジビエ料理専門」を掲げるお店で出てきても納得のおいしさです。
これでお値段、650円!
突如として拉致され、勝手にメシを食わされるハメになった甘口さんも、これなら満足してくれたことでしょう。
和さんのたこ焼きはもちろん好きだけど、これからはジビエ丼を頼む機会が増えそうな予感です。
「ちなみにこれからどうします?」
一休みしながら今後の身の振り方を考えます。
私は「誰か捕まえたらそのまま走ってもいいし、一人で釣りでもしてもいいかな」くらいの気分で出てきたので、言ってみればほぼノープラン。
一方の甘口さん。
「千葉フォルニアを目指して走ってきたものの、どうしようか考えてたトコ」と、こちらも白紙に近い状態です。
「つり処たぬきさんでタナゴ釣りでもします?」
「まぼろし堂さんに行ってみるのもいいかも」
というやり取りをしていると、これまたバイク仲間のtunaさんが、FTRを3台連ねてまぼろし堂に行くというじゃないですか。
しかもにくどろさんも来るらしい。
ならば我々も、そちらへ馳せ参じようじゃないですか。
営業開始は午後1時ごろ。
これから向かうにはまだ少し早過ぎる。
甘口さんの一言で、まずは海を見に行くことになりました。
本物の海を見るのはちょっと大変だけど、行徳あたりの波止場なら一瞬で着ける距離です。
国道298号を南下し、そのまま国道357号へ。
20分余りのショートトリップ。
湾奥の海。
構造物に囲まれた自然の少ない海だけど、これはこれで悪くない。
個人的には好きな部類の“海のカタチ”です。
ひとしきりおしゃべりして、そろそろまぼろし堂さんに向かおうかと思ったところ・・・。
「エンジンが、掛からない!」
甘口さんがいきなり恐ろしいことを言い出しました。
さっきまでなんの問題もなく、快調に走って来たジクサー。
確かにキーをオンにしても、ウンともスンとも言いません。
セルが弱いとか、回らないとかではなく、メーターにすら全く電気が来ていないよう。
(これはもしかして、断線?)
嫌な予感がよぎります。
シートを外し、バッテリーをチェック。
完全に通電がストップしている症状から察すると、ヒューズが飛んだかどこかのケーブルが断線しているか、接触不良とかの可能性が高そうです。
ヒューズを確認するものの、問題なし。
となると嫌な予感の方、断線や接触不良の可能性が高くなってしまいます。
「バッテリーかもしれないから、GNのバッテリーを繋いで掛けてみましょう」
そう提案して、車体からバッテリーを取り外します。
これで掛かればシメたもの。
と言いつつも、実はあんまり掛かる気はしていなかったんです。
だってほら、バッテリーが弱ってるんだったら、「セルが回らない」みたいな症状が出るのが普通でしょ。
いきなり通電が完全にストップするなんて、聞いたことがありません。
回ればラッキー、くらいで繋いだら・・・。
あら不思議。一発で掛かりました。
バッテリーだったの・・・かな?
甘口さん自身もちょっと驚いたよう。
「最近のバイクは『電圧が足りないと完全に通電を遮断する』みたいにできてるんですかねぇ」
なんてことを話しつつ、一路まぼろし堂を目指します。
走りながら、「甘口さん、帰り道では絶対止まっちゃダメですよ。トイレもダメ」と釘を刺します。
まぼろし堂ではいっぱいバッテリーが並んでいるだろうけど、一人になってから止まったら目も当てられない。
この時はもう完全に、バッテリーが原因だと思い込んでいたんです。
バッ直で繋いだグリップヒーターが、諸悪の根源だったんだろうと。
ほんの30分前まで、「バッテリーが弱っただけなら、通電が完全にストップするなんて症状は考えにくい」って、冷静に捉えていたはずなのに。
人間の頭なんて、自分の都合の良い方に解釈するようにできてるんですね。
まぼろし堂へ。
さすが休日の人気店、大盛況です。
駐車待ちの車は列をなしているし、駐輪場にはバイクが何台も。
入るとすぐ、我々の到着に気付いたtunaさんが手を振ってくれました。
休日、ということは・・・。
前回は食べられなかったグーテンバーガーがある、ということか。
もちろん買います。
食べてみます。
手動販売機にお金を投入。
率直な感想は、「なにこれ、ちゃんとおいしいじゃない!」です。
肉厚のハンバーグに、トロトロに溶けたチーズ。
自販機バーガーらしい味は確かに再現してるんだけど、普通の自販機バーガーよりしっかりチーズバーガーでしっかりおいしい。
ボリュームだって自販機のそれより、ずっとしっかり。
これは人気が出るのも頷けます。
ハンバーガーを食べ、やっぺ神社にお参りし、初めましての方も交えてバイク談義。
いやホント、「駄菓子屋」という括りでは捉えられない不思議な空間です。
1〜2時間はしゃべっていたでしょうか。
遠くから来られている方がポロポロと帰り出しました。県を跨いで来ている甘口さんも、そろそろ帰路に付かなければならない時刻です。
そう。ご想像の通り。
やはりエンジン、掛かりませんでした。
申し訳ないけど、吹き出しちゃいましたよ。
もう一度GNのバッテリーを下ろして、ジクサーに繋ぎます。
と、やはり一発で掛かりました。
「こりゃ全く充電されてないっぽいですね。ジェネレーターかな」
が、今度はさっきと少し症状が違います。
海では一度回り出したら安定していたのに、今度は回転自体が安定しません。
プスっ。
少しアクセルを開けたら、見事に止まってしまいました。
ここまで来ると、もはやコント。
ホントに失礼だとは思っているんだけど、笑わずにはいられません。
ごめんよ。
周りにいた方々もウケまくっているくらい、堪えることのできない面白さです。
さすがにこれでは自走は無理。
警告灯だって点いています。
車通りの多い幹線道路で止まりでもしたら、それこそ大惨事です。
「レッカー呼びましょ」
周りの方も口々に、そう促します。
保険屋さんに連絡して、待つことしばし。
かくして甘口さんのジクサーはドナドナされて行きました。
に、しても・・・。
バイク乗りって、ホントにみんなトラブル大好きですよね。
といっても「人の不幸は・・・」的な発想ではないですよ。
もっとシンプルに、トラブル自体が楽しくて仕方ない。
ええ。申し訳ないけど、私も存分に楽しませていただきました。
本人にとっては災難なんだけど、止まったのが甘口さんのジクサーではなく私のGNだったとしても、私も周りも同じように楽しんだだろうと思います。
修理にお金が掛かるのは悲しいけれど、その分バイクに対する愛着も湧くってもんですよ。
冒頭の話。
「ピカピカ代」にお金を出すくらいなら、私だったら「愛着代」の方がいい。
青天井でいくらでもお金が使えるなら新車もいいけど、限りある予算は「思い入れ代」に回したい。
私のGNもこれまであちこち壊れたし、あちこち傷も付いたけど、だからこそ愛着だってひとしおです。
トラブルはない方がいいけれど、あったらあったでそれも含めて楽しんだらいいし、直った相棒との絆はさらに深まっているはず。
そんなことを強く感じた一日でした。
甘口さん。
ジクサー早く直ると良いですね。
さんざん楽しませてもらっちゃったから、次回は猪肉丼とグーテンバーガー奢ります。