ひょんなことから始まった、自分の名前を辿る旅。
「自分の名前が間違っているかもしれない」という珍妙な疑惑が生じ、ハラコセキを入手するため横浜くんだりまで遠征したものの、期待した成果は得られず。
「“明確に”確認できなければならない」という文字が、残念ながら滲んでしまっています。
前回の記事はこちら↓↓↓
端的に言うと、現状は「自分の使っている名前と、戸籍に記載された名前の文字が違っている」という歪な状態。
これを解消するための根拠を探して結局生まれた時まで遡ることになり、郵送でのやり取りで自分の最も古い戸籍を取り寄せることとなりました。
九州のとある田舎の市役所に改製原戸籍を請求し、1週間ほど待って届いた結末は・・・。
やはり自分の認識が正しかった!
納得の結果です。
生まれた時まで遡ったハラコセキには、手書きでしっかりと俗字の記載がされていました。
ふぅ。これで一安心。
少なくとも免許証だの金融機関だの、全ての名前を変更するという最悪の結末は回避された。
とはいえ、未だ確認ができただけ。
戸籍を修正しないことには、住民票を取っても間違った記載のままの状態です。
ハラコセキ2通を手元に置いて、本籍地に電話します。
「戸籍の字が間違っている事が確認できたんですが、修正の手続きはどのようにしたら良いでしょう?」
こんな相談はそうそうあるもんじゃないんでしょう。さすがに即答とはいかず、「お調べして折り返します。電話を切ってしばらくお待ちください」という回答でした。
数時間後。
その回答は、予想していたよりもかなり簡単なものでした。
「戸籍修正の申し出をしてください。本籍地でなくても可能な手続きですから、住民登録をされている市役所に行っていただけば大丈夫です」
え? そんな簡単でいいんだ?
もっとややこしい話かと思ったよ。
話によると、私が電話を入れてから数時間の間に、かつて私が戸籍を置いていた市町村に本籍地から電話を入れて、記載の状況や経緯などを確認してくれたんだそう。
「風来爺さんが転籍された頃、戸籍の電子化に伴って“使える文字”を統一するという作業を進めていた最中だったんです。その一環で正字に修正されたようです」
違った字に換えられた経緯も、概ね想像通りの話でした。
とりあえず一安心。
次の休みに市役所に行ってこよう。
が、コトはそう簡単には運びませんでした。
窓口の方曰く、「俗字を正字に直すことはできますが、正字を俗字に戻すことはできません」。
完全に振り出し。
これまでの経緯を説明し再度の確認をお願いしたものの、「こちらでは受けられないので、本籍地でお手続きください。ただ、本籍地まで出向いてもできない可能性があるので、事前にお電話で確認された方が良いと思います」との回答です。
(いやいやだから、本籍地には何度も何度も確認してから来てるんだよ。ハラコセキまで揃えてさ)
役所の方は真摯に丁寧に対応してくれているし、本当にそれができないのであればそう言うしかないのもよく分かります。
でも・・・。
できるだけ態度に出さないように気をつけてはいるものの、どうしてもイライラが募ります。
だって今日が最初の相談じゃないんです。
これまで市役所にも本籍地にもさんざん電話して、何度も確認した上で必要な書類もやっと揃えて出向いて来たんです。
これで振り出しに戻るなら「延々と無駄な作業を繰り返してきただけ」という事になってしまいます。
「すみませんが、本籍地に確認してもらえませんか?」
「市役所で手続きできる」と断言した本籍地の担当の方に、市役所から直接確認してもらうことにしました。
待つこと1時間。
返ってきた最終の結論は「私と妻の申し出では手続きできない」というものでした。
俗字から正字に変更されたのが結婚前の戸籍なので、修正するならばその時点の戸籍を直さなければならない。それができるのは、その戸籍の筆頭者である父と、今もそこに記載されている母が連名で申請する方法のみ。
仮に私の戸籍だけを修正するならば、家庭裁判所に申し立てをしなければならない。
あちこちの市役所で聞いた話、ネットで調べた断片的な情報が、この説明で完全につながりました。
「そうですか。よく分かりました」
「お手間をかけてすみませんでした」
ここで完全に心が折れました。
現時点で実現可能性が高そうな方法は、年老いた両親に頼んで戸籍を変更してもらうというもの。
でも一方で、「そこまでする必要があるんだろうか」という躊躇いも生じてしまいます。
母は「どうせ老い先短いから直さなくてもいいか」なんて言っていたくらいなので、特に字に対するこだわりはなさそう。
であれば、私が無理して戸籍を直してまでパソコンですら出力できない字を使い続けるよりも、正字を使う生活にシフトした方がいいかもしれない。
名前を俗字に修正するのは諦めて、当初「最悪の結末」と考えていたものを受け入れる方が、むしろ現実的な気がしてきました。
例えば免許の更新などのタイミングで、使っている名前を少しづつ正字に変更して行く、という方法で。
決めました。
戸籍の修正、断念です。
なかなかにしんどい作業だった。
に、しても・・・。
今回の顛末、「ちょっとお粗末すぎるだろ」というのが率直な感想です。
そもそも今回のトラブルは、平成3年にあった「俗字の記載は正字に修正しろ」という通達から始まったことだそう。
戸籍を電子化するに当たって「日本中でいろんな人が好き勝手に使っている字を統一する」ことは、確かにとても重要なことだと思う。
だから正字に直したこと、それ自体に文句を言う気はないんです。
でもね、その一方で。
世の中は完全にそれに逆行してますよね?
かつては旧字で書こうが常用漢字で書こうが“同じ名前”と認識してくれていたけど、今の方が確実に厳格になっています。
私自身も正字と俗字の違いで本人限定郵便が受け取れなかった経験もあるし、他人の名前を書く時も相当気を使わなければならなくなった。
パソコンで表示できない文字であれば、その部分だけ手書きするケースも少なくない。
それが昔より一層細かくなっている気がします。
例えばサイトウさん。
斉藤なのか、斎藤なのか、齊藤なのか、はたまた齋藤なのか。
そして吉田さん。
「私の『吉』の字は『士』じゃなくて『土』なんです」なんて方もいらっしゃる。
行政上は「全て正字で統一すれば問題ない」ことになったのかもしれないけれど、商慣習なんかで言えばむしろ昔より厳格化しています。
それを踏まえた上で、「だからこそ正字に統一すべき」という発想で始めた施策だったのかもしれません。
であれば、本人が知らないうちに名前が変わっているという事態はあってはならないはず。
修正するのであれば、最低限そのアナウンスが必要だと感じます。
「日本では正字の使用に統一することになりました。アンタが使っていた字は使えないので、今後は正しい字を書いてください」と。
現実では、それはほとんど周知されていなかったのではないでしょうか。
そもそも「通達」とは上級行政庁から下級行政庁への事務の指示・命令など、あくまでも当該省庁内に留まる規則にすぎず、広く一般に周知するような性格のものではありません。
その上この通達はたった3年ほどでその効力を失い、本人が自発的に申請しない限り行政側で勝手に文字を修正するという事はなくなったのだとか。
つまり、その3年ほどの期間に戸籍に関わるなんらかの手続きをした場合に限って、本人の預かり知らないところで字が修正されているということ。
私はまさにそれに該当したことで、こんなややこしい事態に陥ってしまった。
名前難民になってしまった。
原則的には、俗字を正字に直すのは認められるものの、その逆はNG。
私のように、その通達が生きていた時期に勝手に変更された場合に限って、例外的に「正字→俗字」という修正も認められるそうです。
本籍地に電話で確認した際に、簡単な手続きで修正できるという誤解が生じたのは、この例外に当てはまる事が確認できたからだったのでしょう。
が、ここに至るまでの作業はこれまで記した通り、なかなか手間の掛かるもの。
私もネットで調べ、役所に電話し、というのを繰り返して、なんとか辿り着いたものでした。
そして残念ながら、かなりの時間と労力を無駄に費やしたという結果になってしまいました。
「お粗末」と表現したのは、この「名前の変更」という一大事が、とても軽く扱われた印象が否めないからです。
おそらくこのブログを読んでくださっている方の中にも、「自分の名前がパソコンで出力できない」という方がいらっしゃるでしょう。
おそらくそれに対して少なからず不便を感じていることと思います。
私もまさにそうでした。
半世紀慣れ親しんだ名前を使い続ける選択肢と、毎回「正字ではなく俗字なんです」と修正する手間を解消する選択肢。
この二つを秤にかけて、最終的に私が選択したのが後者です。
「あ、ウチの字もパソコンで出ないなぁ」
そう思った方、一度ご自身の戸籍を確認してみても良いと思います。
もしかしたら、知らないうちに「パソコンで出る字」に直されているかもしれません。