「突然だけど、キャンプ行かない? ソロ集合で」
そんなメールが届いたのは、梅雨も明け切らない7月下旬のことでした。
差出人は、10代の貴重な時間を同じ高校で過ごした旧友。
当時住んでいた場所は近かったけど、卒業してからはお互いに別々の土地で生活するようになっていたし、クラスも部活も一緒ではなかったから「同窓会で会う」なんて機会も極端に少なかった。
SNSを介したやり取りは続いていたものの、おそらく10年は会っていません。
リターンライダーとなってソロキャンプを再開した私と、もともとファミリーキャンパーで、最近ソロでも楽しむようになった彼。
共通の趣味を持つことはSNSに上がるお互いの投稿で分かっていましたが、まさかこれが交わるとは思ってもいませんでした。
たまたま共通の友人と「キャンプ場でソロ集合」なんていう話が出て、「それならあいつも誘ってみようか」と、声を掛けてくれたというのがメールをくれたいきさつでした。
が、候補に挙がった日程は、いずれも私の仕事の都合で調整がつかず。「不定期の平日休み」という残念な勤務体系が災いし、不本意ながら参加することができません。
「ごめん。今回は難しそう。行ける人で楽しんできて」
そう答えた私に「あらかじめ日程が分かれば平日でも調整できるから、日を改めてまた行こう」と言ってくれたのが2カ月前。
久しく会っていないとはいえ、それを社交辞令で済ますほど疎遠な仲とは思いたくない。
月中の、比較的落ち着いた時期を見計らって取った2連休。
もちろんソロでキャンプに行く計画です。
「場所もまだ決めてないけど、もし良かったら合流して!」
せっかくだからと、そんなメールを送ります。
急だし、さすがにちょっと難しいかな、なんて思いつつ。
すると、当たり前のように休みを調整してくれて、即座に返信してくれました。
久しく会っていないとはいえ、そこは気の置けない旧知の友人。
遠慮なく希望を言い合って、行先は二人とも気になりながら行ったことのなかった月川荘キャンプ場に決まりました。それも「天気次第で臨機応変に」という、いつも通りのゆるーいスタイルです。
数日前に台風が発生した時はちょっとだけビビったけど、当日の予報は「降っても小雨程度」。
これならさほど心配しなくて良さそうです。
そして当日。
思った以上の快晴です。
今回は相手の装備が分からないから、ソロ想定の普段の道具を一通り。調理器具や焚火台もしっかり積んで出発です。
ナビによると、目的地までは70数キロ。2時間半程度の行程です。
休憩やら渋滞やらで消費する時間があるだろうから、1時間ほど余裕を持って出掛けます。
走り出して、ほんの数分。
いきなり渋滞に捕まりました。
でもね、これぐらいは想定内。
いくつか橋を渡るから、ここで混むのはいつもの事。つまらないと言えばつまらないけど、しばしの辛抱・・・。
くらいに思ってたんですよ。
それどころじゃなかったです。
タラタラ走ってまた止まり、の繰り返し。
1時間経って休憩を挟んだけれど、距離はぜんぜん進んでいない。
ナビの到着予定時間から逆算すると、すでに持ち時間の半分を消費してしまったようです。
休憩もそこそこに、走り出す。
一番混むであろうスポットは通過したから、後はナビに従ってひたすら走るのみ。
国道122号に入ると、さらにペースが上がります。
少しずつ、失った時間を取り戻している感じ。
と思いきや、今度はピタッと止まってしまいました。
車線案内の赤いラインをイエローラインと勘違いして、一番長い車列の後ろに並んでしまったのも災い。
国道16号と122号が交わる複雑な交差点。
ここを過ぎた辺りで、ナビが示す到着予定時刻は11時ジャスト。つまり、約束の時間です。
持ち時間を全て使い切ってしまいました。
「ちょっと遅れそう。ごめん!」
10分ほど遅れて到着すると、駐車場に長身の男性が1人。遠目でも、その佇まいからすぐに友人だと分かります。
「遅れちゃってごめん!久しぶり!」
「久しぶり。もう4〜5年くらい会ってない?」
「いやオレ、前回の同窓会行ってないから、たぶん10年は会ってないよ」
そんな会話を交わしつつも、何故だかそれほど「懐かしい」という感覚はないんです。
普段からSNSでやり取りしているせいなのか、それとも見た目がほとんど変わっていないからなのか。
「まずはサイトをぐるっと見てみて、テント張る場所決めようよ」
久々の再会を噛み締める、なんて感動的な光景もなく、普段の私のソロキャンプと全く変わらない行動を提案してくる彼。
「林間サイトは雰囲気いいけど、地べたが濡れてて面倒だね」
「川の対岸にもテント張れるね。けど、酔っ払ったらトイレが大変。川に落ちそうだ」
「どうせビールをしこたま飲むから、トイレ近い方がいいよね」
設営場所選びの発想まで似過ぎていて、なんか笑う。
結局、フリーサイトの端っこ。
トイレに近い場所を確保して、お互いのテントを設営しました。
向かい合わせに張った2つのテント。完全にサシ飲み仕様です。
「それじゃ、買い出しと温泉にでも行きますか」
実は今回のキャンプではもう一つ、温泉という楽しみも用意してあったんです。
玉川温泉。
「昭和レトロな温泉銭湯」なんてコピーがついています。
まずは近くのスーパーで、お酒と食材の買い出し。
二人とも飲む気満々だから、ちょっと多めに仕入れます。
なんせ一回お酒入っちゃったら身動き取れないですからね。足りなくならないように、余裕を持って買い込みます。
夕食は肉を焼くことに。明日の朝食はリゾットに決定。
そしてお目当の玉川温泉。
確かに昭和!
ミゼットなんかが停まっていて、いい雰囲気の施設です。
まずはゆっくり汗を流して、軽く昼食を済ませてキャンプ場へ戻ります。
では、心置きなく。サシ飲み開始。
ツマミの一つも用意せず、延々とおしゃべりしながら、ひたすらハイペースで缶を空けていきます。
共有していた時代の話はもちろん、別々になった大学の頃、そして今までの生活。
多少は差し障りのない話もしましたよ。お気に入りのキャンプ場の話とか。
でもね、高校時代の友達なんかに遠慮は一切いらないから、普通だったら聞きにくいような話だって、お互い全て直球で投げ合います。
当時好きだった女の子に猛アタックしていたのを、側から眺めて楽しんでいた話。
多少なりとも応援しているつもりもあった話。
こっちはこっちで卒業してから当時の彼女に何度も何度も振られまくった話。
考えてみたらこの二人、サシで飲むのは初めてのこと。
しかも当時もそれほど接点がなかったのに、なぜかやたらと話が合ってアルコールが止まりません。
余るくらいに買い込んだはずのビールは結果的には足りなくなって、売店で買い足すハメになりました。
でね。
思い出しちゃったんです。
二人の共通点。
隣町の中学から一緒の高校に入学した私と彼。
それぞれがそれぞれの中学で、あまりにも危うい成績から受験自体を反対されたのに、無理やり受けてなんとか最低の成績で合格した・・・。
そうだった。
そんなバカバカしい共通点があったんだ。
さすがに忘れてたよ。
たぶんそれで仲良くなったのに。
この30年で、おそらくほんの数回しか会っていない旧友。
結局最後まで懐かしいなんて気は起きなくて、でもお互い知らない時間があり過ぎて、止め処なく話が溢れてくる。
そんな不思議なひとときでした。
で、思ったんです。
そうだよ。リターンライダーになってなかったら、こんなに素敵な経験もできなかったんだ。