幼い頃から駄菓子屋が大好きだった。
串に刺さった甘辛のタラとか酢イカだとか、毒々しい色のチューペット。
栓の中に変な粉が仕込まれてて、そいつを一旦ねじ込むと炭酸チックになる、なんていう妙なチューペットもあったなぁ。
ヨーグルも好きだったし、アンズも大好きだった。
初めてアンズを買った時、アンズだと思って手にしたそれはスモモ漬けだったんだ。
当時としては高価な高価な30円。
今ではスモモも大好きだけど、幼かった爺にはそれはクソまずいシロモノで、なけなしの小遣いを無駄にした後悔で泣きそうになった記憶もある。
今日はそんな、駄菓子屋さんのお話。
前々からTwitter界隈で話題になっている駄菓子屋「まぼろし堂」さん。
バイク仲間のtunaさんに連れられて行ったのは、確か半年ほど前のことでした。
辿り着いたのは「こんなトコに店があるのか!?」というような場所。
ちょっと薄暗い通り沿い。
仮囲いに視界を遮られたその佇まいは、言ってみれば産廃業者のそれでした。
そこが駄菓子屋だと知っていなければ、詳しい人に連れて来られたのでなければ、訪れる機会もなかったかもしれません。
その日、訪問者を拒絶するような外観であったのは、実は理由がありました。
それは、門がしっかりと閉ざされていたこと。
営業中であれば開いているはずの門が。
残念ながら、コロナの影響で休業中とのことでした。
以来なかなかタイミングが合わずに未訪となっていた場所。
たまたま何の予定も入らず、お休みとなった週の真ん中。
釣りに行こうかとも思っていたけれど、天気もイマイチでダラダラと過ごしていたら、すでにお昼過ぎ。
そろそろ活動を開始しようかと思ったところで思い付いてしまいました。
そうだ。まぼろし堂さんに行ってみよう。
「走りに行く」と言っていたtunaさんも、朝の天気に足留めされていた様子。
現地集合で落ち合う約束をして、エンジンに火を入れます。
Google先生によると、目的地までは約1時間。
額面通りに受け止める訳には行かないから、30分ほど余裕を持って出発します。
でもね。
そういう時に限って、むしろ早く着いちゃったりするんですよ。
途中のコンビニでトイレを借りて小休止。
ちょっと時間調整をしたものの、約束の30分前には到着してしまいました。
今日はしっかりと、門が開いています。
たどり着いたそこは、未だかつて見たことのない空間。
出てきてくれたお姉さんが「今日は駄菓子自販機だけの営業で、ハンバーガーとかは無いんです。ごめんなさい」と声を掛けてくださいました。
「そうなんですね。分かりました!」
そうお答えしたけれど、実は私、「そういえば誰かがハンバーガーをTwitterに上げていたなぁ」くらいの予備知識しかありませんでした。
「駄菓子自販機」なるものの存在だけで興味津々。
全くもってNo Problemです。
店を観察。
そこは想像していた駄菓子屋とは全く違ったものでした。
自販機が並ぶその光景は、むしろ「あらいやオートコーナー」や「オートパーラーシオヤ」に近い。
「自販機探訪」で取り上げた、チバラキオートレストラン御三家のそれです。
グーテンバーガー、コーヒー、まさに駄菓子屋に置いてありそうなゲームの類もいくつか。
コーラ自販機のような赤い箱は、先ほど聞いた駄菓子自販機でした。
近寄ってみると、機械音声のアナウンスが流れてきます。
自販機の使い方の説明。
が・・・。
それと同時に、中の人の肉声がハモっているじゃないですか。
なんてシュールな・・・。
ありきたりな表現しかできないけれど、「シュール」以外の言葉が見つかりません。
重なる音声だけでなく、その内容も。
「ボタンはダミーです」
え? だみー?
どういうこと???
よく見れば、自動販売機と思ったそれは、なんと手作りの「手動販売機」。
自販機の中には人が入っていて、中でコーヒーを作っているー。
なんていう、子供を騙す冗談のような話がリアルに存在しています。
想像の斜め上どころの話じゃない。
衝撃的です。
一気にテンションはMAX。
千円札を握りしめ、今買うべきモノを吟味します。
そりゃもう真剣に。
お父さんの家呑みセットとステッカー、立ちゴケ封印お守りストラップだな。
千円札を投入!
外のテーブルで一人、ニヤニヤしながら開封の儀。
久しく忘れていた、「駄菓子屋でくだらないモノを買った時」の、何にも代え難い「大きな喜び」です。
大人になってからというもの、駄菓子屋の遊びはセンベロ居酒屋がその担い手となっていましたが、実は全くの別物だったようです。
いただいたほうじ茶を飲みながら、戦利品をつまみます。
スモモの袋の端を切って、中の酢をチューチュー。液体がなくなったら、スモモをかじる。
記憶のスモモは豆腐のようなパックに入っていて小さなストローで漬け酢を吸っていたけれど、食べ方自体は子供の頃と全く変わりません。
ひとしきり駄菓子を満喫した後、今度は来た時から気になっていた鳥居の奥を覗いてみます。
何やら御神体が。
やっぺ神社と書いてあります。
聞けば「お笑い芸人の椿鬼奴さんがお参りして、そこからレギュラー出演が決まった」という縁起の良いお宮さんだそう。
以来、若手芸人さん達の間で「ご利益のある神社」として崇められているんだとか。
若手でも芸人でもないけれど、私もお参りしてみます。
「レギュラーが決まってブレイクしますように」
冗談はさておき、仕事がうまくいきますように。
tunaさんと落ち合って、マスターも顔を出してくれて、しばし談笑。
実はマスターもバイク乗り。ハーレーダビッドソン・ソフテイルスリムのオーナーです。
「最近はぜんぜん乗ってなくて、いじって楽しみ愛でて楽しむ“盆栽”みたいになってますよ」
バイク談義に花が咲き、1時間も話し込んでしまいました。
「バイク乗りの方々がここで出会って仲良くなって、そのまま一緒にツーリングに行った」なんて話も珍しくないそうです。
そんな駄菓子屋、たぶん日本中を探してもココだけでしょう。
こんなところも、想像の斜め上どころじゃない。
大人になってからも、駄菓子自体に触れる機会はいくらでもありました。
ショッピングモールなんかに行くと、ちょっと小洒落た駄菓子屋さんが入っていたりしますから。
ちょいちょい買っては酒のつまみにしたりして。
でも、そうやって触れる駄菓子屋は、私が知っている昭和のそれとは全く違うもの。
とはいえ時代とともに形を変えるのは当たり前だし、とりわけ寂しいとも思ってはいませんでした。
が、「昭和の駄菓子屋」がそこにあると聞けば、やはり行ってみたいと思う。
そんな気持ちで訪問したのがここ、まぼろし堂さんでした。
でもね。
昭和の駄菓子屋?
懐かしい駄菓子屋?
いやいや、そんな言葉で一括りにできるようなお店ではないんです。
今まで一度も見たことのない、想像することすらできなかった駄菓子屋です。
この手動販売機、元はと言えば「お客さんが密にならないため」に始めた秘策、つまりコロナ対策だったそうです。
「コロナが落ち着いたらどうしようかな」なんておっしゃっていましたが、今の段階では全くの白紙だそう。
今のままの姿は本当に魅力的だし、普通に対面で駄菓子を売ってるまぼろし堂さんも見たい気もする。
どちらに転んでも、この魅力、この素晴らしさがスポイルされることはない気がします。
正直言って、私の拙いブログではこの魅力はお伝えしきれない。
騙されたと思ってぜひ一度、足を運んでみてください。
なんなら県を跨いででも、高速道路を使ってでも訪れる価値のあるお店です。