育った街は海の近くだった。
自信を持って「海」と言えるほど、大層な代物ではなかったけど。
埋め立て地に囲まれた、工業地帯の湾の奥。
油の浮いた水面は大して波も立たないし、どこからでも「向こう岸」が見えた。
ここに注ぐ川はヘドロまみれで、夏になるとガスがポコポコ湧き上がって気分が悪くなるほどの悪臭を放つ。
身近な海は、そんな海だった。
ハゼ釣りを覚えたのも、初めての素潜りも、そんな汚い海でのこと。
今考えると、たぶん遊泳禁止だったはず。
でもそれは、昭和の時代を東京湾の近くで過ごした小学生なら割と当たり前の光景だったように思う。
高校に上がった頃にはさすがに泳がなかったけど、予備校からの帰り道はわざわざ遠回りして海沿いのルートを選んでいたなぁ。
あの頃はまだ、自転車で。
30年も経つと、おそらくずいぶん美化された思い出になっていることと思います。
けど、それくらい海は身近な存在でした。
「海が見たいなぁ」
そう思ったのは数日前のこと。
もしかしたら、ちょっと疲れが溜まってネガティブな思考になっていたからかもしれません。
海を見て気持ちをリセットしよう、と。
年末とお正月のキャンプツーリングの時に少し海沿いの道を走ったけど、そういえばGNくんでは海沿いのツーリングってあまりしていない気がします。
じゃあ行こう、海。
海沿いなら凍結もしにくいだろうし、何より千葉に住んでてツーリングコースに海要素を盛り込まないのはもったいない。
せっかくだから、外房まで足を延ばして太平洋を臨むとしましょうか。
決まった。
行先は九十九里。
調べてみたら、片道たかだか70キロあまりです。
これなら朝はゆっくり寝ても十分楽しめそう。
さぁ行こうGNくん。
海を見に!
朝10時過ぎ。
コーヒーを淹れて、身支度を整えます。
昨夜は仕事で疲れた身体にアルコールを流し込んでしまったため、ツーリングにふさわしい時間に目を覚ますことは叶いませんでしたが、それでも今日の距離なら問題ない。
デグナーのワックスコットンジャケットとコミネのフルイヤージーンズ、いつもの冬装備。
とりあえず電熱グローブは温存して、ヘンリービギンズのグローブを装着して走り出します。
今回は幹線道路を避け、白井から印西、酒々井、八街と抜けるルートです。
「今日はやたらと細い道が多いなぁ」と思ったら、Yahoo!ナビではなくGoogleマップを起動していましたよ。やはりGoogleさん、最短ルートに強いこだわりがあるようで。
ほとんど街中を通過しないので、快適なペースで走ります。
途中で一度、トイレ休憩でコンビニに寄ったくらい。
2時間半ほどで目的地に到着です。
水平線の見える、本物の海。
波の音も、潮の香りのする強い風も、海に来たことを強く実感させてくれます。
やっぱりいいですね。海。
缶コーヒーを飲みながらしばし佇んで、それでは海沿いの道を走ってみましょうか。
九十九里有料道路。
今回のツーリングのメインルートです。
自動二輪は220円。
ここに来るときに、ちゃんと料金をチェックして来ましたよ。
お財布からぴったりの小銭を取り出してポケットへ。もちろんピンクナンバーの我がGNにはETCなんて付いてないですからね。
準備万端。
が・・・。
九十九里有料道路、通れません。
「原付1種・2種通行禁止」
と書いてあります。
そりゃもう、デカデカと。
いやね。
移動する分には何の影響もないんですよ。
県道30号が並走してますからね。
でも、この県道だと有料道路が邪魔して全く海が見えません。
高速道路じゃないんだから、通してくれてもいいのに。なんか原付に含むところでもあんのかよ。
ブツブツ・・・。
ヘルメットの中で恨み節を呟きつつ、県道をひた走ります。
これはこれで気持ちのいいコースなんですが、すぐ脇に海を眺めて走れる極上のルートがあると思うとちょっと損した気分になるのは否めない。
が、しかし。
マップをよく見てみると、海の側までバイクで入って行けそうな道もチラホラ。
せっかくだから、ちょっと寄り道してみます。
細い路地を、左折。
有料道路をアンダーパスすると、途端に舗装が途切れます。
え?砂!?
いきなりの砂地です。
幅員も2メートルくらいだし、なんせ砂なので轍とかいうレベルでなくデコボコ。
まともに走れません。
こういう時って、なぜだかヘルメットの中で爆笑しちゃいません?
「うわマジかなんだこりゃ馬鹿じゃねーの?」
とか言いながら(笑)
おそらく距離にして100メートルあまり。
笑っている間に、なんとか道が開けました。
駐車場のようです。
が、もちろんここも砂地。
クラッチをそっとつないでやらないと、あっという間に後輪が埋まってしまいそう。
怖い怖い。
けどなんか、これで完全に海を満喫した気分です。
それじゃ心置きなく次の目的地に向かいましょう。
今回のツーリングではもう一つ、お目当てのスポットがありました。
市原に移転した、さすらいカフェさん。「旅」がテーマの、洋食の美味しいお店です。
県道沿いにはなんとも魅力的な地魚料理のお店が並んでいるし、このまま勝浦まで南下して勝浦タンタン麺を食す、という選択肢もある。
ですが、今日はもう洋食の口になっています。
移転前のお店にお邪魔した時に、手に入れそびれたTシャツも買いたい。
九十九里から40キロ。
ちょっと風が強いけど、今度はワインディングでも嗜んでみましょうか。
こちら、さすらいカフェ市原平蔵店さん。
「カフェ」と銘打ってはいるものの、ここは洋食屋さんと思って来ていただきたい。
(確か和食の)料理人だったマスターが作る、地場の食材を活かした料理が美味いこと美味いこと。
この日いただいたのは「カツオのカツカレー」。
洒落みたいな名前ですが、大原港で捕れたカツオをサクッとしたフライに仕立て、これまた風味豊かなカレーに載っけた逸品。
いやホント、めちゃめちゃウマいっす。
前に買いそびれた米Tも。
前に見たのとデザインが変わっているけど、まぁいいか(笑)
このさすらいカフェ。
ニワカ千葉県民で大して詳しくもない風来爺が唯一、胸を張ってお勧めできるお店です。
ライダースカフェでもないしバイク要素はゼロなんですが、居心地が良くてご飯がおいしい。
そして海からも、養老渓谷からも近い立地。
ツーリングの途中に寄ってみたら、おそらく、いや絶対に満足してもらえると思います。
あ、そうそう。
キャンプ好きにはより一層楽しめるお店なんですが、この話は長くなるから項を改めて記すことにしよう。
そんなこんなでこの日のツーリングは190キロほど。
帰りは千葉の湾岸を経由したからちょっと渋滞にも巻き込まれたけど、それ以外は快適な旅でした。
これで少しは心の凝りもほぐれたかな。